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アンティーク家具の修復について・塗装編

ハリーズアンティークマーケットでは修復が必要なアンティーク・ミッドセンチュリー家具のおおまかな修復工程として、次の工程に分け修復・メンテナンス作業を行なっています。

 

・クリーニング
・塗膜の除去
・構造の修復
・着色
・塗装
・仕上げ・クリーニング

 

それぞれに経験や専門的な知識が必要な作業となります。今回は塗装についての実験・検証を行ったのでご紹介します。

 

家具の塗装方法には様々な方法がありますが、ハリーズアンティークマーケットでは、主に次の方法での塗装を行なっています。

 

・家具用のオイルを使用するオイルフィニッシュ塗装
・シェラックを使用するフレンチポリッシュ塗装
・水溶性ウレタン樹脂を使用する水性ウレタン塗装 1液型・2液型

 

それぞれの塗装方法の特徴は様々なところで紹介されているので詳しい説明は省きますが、ざっくりした特徴として、

 

・オイル塗装・・・素地を整えた家具にオイルを塗布しながら細番手の耐水ペーパーで研磨し、発生した木材の細かな粉をオイルと共に木目や導管に入れ、目止めを行います。この作業を数回繰り返すと、さらさらとした木本来の肌触りが味わえるナチュラルで温もりのある仕上がりとなります。一般的には水分に弱いとされていますが、ご家庭でのメンテナンスが容易です。傷がついた際にも浅いものであれば部分的な修復が可能。目立ちにくくすることができます。人体への悪影響はありません。仕上がりのツヤ感の調整が可能です。比較的北欧家具に多い塗装方法です。

 

・シェラック塗装・・・昆虫より抽出した成分をアルコール等に溶かした塗料をタンポと呼ばれる綿を布で覆ったもので薄く、時には数百回塗布する古くから伝わるアンティーク家具の伝統的な塗装方法です。家具以外にもヴァイオリンやギター等の楽器の塗装にも使用されます。技術と手間が必要な方法ですが、アンティーク家具の持つ美しい艶、風合いが味わえる塗装方法です。熱とアルコールに弱く、水分にもさほど強くありません。塗膜の除去が比較的に容易で、メンテナンスを繰り返す事による家具への影響を抑えられます。塗装後のアルコール成分は揮発し天然成分であるシェラックのみが家具に吸着し残るため、人体への悪影響はありません。国によって最終的な塗装仕上げが異なりますが、様々な国のアンティーク・ミッドセンチュリー家具に使用されている塗装方法です。

 

・水性ウレタン塗装・・・家具の表面にウレタン樹脂を塗装する方法です。大量生産家具などに使用する際、一般的にはスプレーガン等で塗布し厚い塗膜を作りますが、ハリーズアンティークマーケットでは刷毛にて職人の手で塗装します。これは家具・木材の持つ風合いを生かすための方法で、ツヤ感、塗膜の厚みを調整できます。よくウレタン塗装は厚い塗膜で家具を覆うため、木の質感や温もりが失われると言われますが、この方法であれば家具・木材の持つ風合いを失う事なく塗装が可能です。水分、アルコール、熱に強い塗装です。水性の塗料を使用することにより人体への悪影響を抑えています。乾燥硬化の仕組みが異なる1液型・2液型を使い分けています。現代家具の塗装方法として広く使用される塗装方法です。

 

以上の、
・オイル塗装
・シェラック塗装
・ウレタン1液塗装(ツヤなし)
・ウレタン2液塗装(ツヤなし)

 

の4種類にて、それぞれ、
・水分耐性・・・氷水を入れたグラスを置き2時間・15時間放置
・熱耐性・・・ケトルにて沸騰させたお湯を入れたコーヒーカップを置き20分間放置
・アルコール耐性・・・高濃度アルコールを塗布後1分間放置
・傷耐性・・・一般的な陶器製コーヒーカップを上から軽く抑え20往復スライド

 

について実験を行いました。(オーク突板、同着色剤にて着色した木材を実験に使用しました)

 

実験風景

アルコール

 

水分・熱

 

 

 

実験前の仕上がり質感

オイル塗装・・・木の質感そのもの。さらさらしていますが、わずかにしっとりとしたナチュラルな風合い。塗膜を感じません。

 

シェラック塗装・・・品の良い美しい艶と色合い。つるっとした質感。うっすらと塗膜を感じます。(色合いについては使用するシェラックの種類により変わります。)

 

ウレタン1液塗装・・・オイル仕上げに似た色合い。さらさらした質感。うっすらと塗膜を感じます。

 

ウレタン2液塗装・・・オイル仕上げに似た色合い。さらさらした質感。うっすらと塗膜を感じます。ウレタン1液に比べるとやや白っぽく見えます。

 

 

1.アルコール実験結果

 

オイル塗装

うっすらと染みができました。光のあたる角度により目立ち方が異なります。再度オイルの塗布や、そのまま使用し時間が経てば馴染んで気にならない程度の回復が見込めそうな染みです。

 

シェラック塗装

アルコールによりシェラック成分が溶けてしまい目立つ跡が残りました。表面を整え、再度シェラック塗装を施さなければ回復できません。高濃度のアルコール除菌スプレーなどには注意が必要です。

 

ウレタン1液塗装

特に影響はありません。アルコールによる水垢のようなものが付着しましたが、固く絞った布巾で拭くと綺麗になりました。

 

ウレタン2液塗装

目立つ影響はありません。

 

 

2.熱による実験結果

 

オイル塗装

光の当たる角度によっては目立つ跡が残りました。

 

シェラック塗装

熱が伝わった箇所に目立つ跡が残りました。高温により塗装面が変色しています。

 

ウレタン1液

特に影響はありません。

 

ウレタン2液

特に影響はありません。

 

 

3.傷に対する実験結果

 

オイル塗装

光の当たる角度によって目立つ傷が残りました。引っ掻き傷というよりは、木の組織を押し潰してできたような傷です。

 

 

シェラック塗装

目立つ傷が残りました。塗膜の表面を引っ掻いてできたような傷です。

 

ウレタン1液塗装

目立つ傷が残りました。塗膜の表面を引っ掻いてできたような傷です。

 

ウレタン2液塗装

光の当たる角度によって目立つ傷が残りました。塗膜の表面を押しつぶしてできたような傷です。

 

 

4.最後に水分に対する実験の結果です。こちらについては驚きの結果でした。氷水のグラスを2時間放置しましたがいずれも影響はなく、それならばと一晩放置してみましたが結果は翌朝も影響はなし。弊社メンテナンス班の高度な修復技術が証明された結果だと言って良いと考えます。塗装後未使用の状態であれば、液体の種類(コーヒーなど色のついた液体)や、環境によるとは思いますが、水であれば特に影響は見られませんでした。

 

オイル塗装

 

シェラック塗装

 

ウレタン1液塗装

 

ウレタン2液塗装

 

 

家具を使用する環境においてそれぞれの塗装方法の特徴を踏まえた選択を生かせる結果になったと思います。

ハリーズアンティークマーケットでは特にお勧めする塗装方法は無く、ご使用になる方の生活スタイルに合った塗装方法をお勧めしております。また、家具の種類によって塗装方法を使い分けることも重要だと考えております。

 

ホームページの商品説明にも表記していますが、経年による味わいなどヴィンテージ家具のコンディションや修復の仕上げについては、お好みに個人差があると私共は考えております。
ご購入いただける際に、ご希望などございましたらお気軽にお申し付けいただければと存じます。